
器制作:阿部慎太朗
写真:はるやまひろたか
器屋をやっていてお客様からよく聞くセリフは、「器の世界は奥が深すぎて、何から揃えていいかわからない」というもの。
奥が深いのは確かですが、プロの料理人でない限り、そんなに難しく考える必要はありません。自分の目と手の感覚で好きな器を自由に選び取り、日々の食卓で使ってあげてほしいと思います。
器については、これまで様々な視点で語られてきましたが、魯山人の「器は料理の着物」という言葉にすべての要素が凝縮しているような気がします。ここでは料理を美味しく見せてくれる「色」という視点からお話してみたいと思います。
第一回目は、すべての色の基本、「白」についてのお話。
「白い器は何にでも合わせやすいし、使いやす い」というのは料理界の不文律。
「白い器は何にでも合わせやすいし、使いやすい」というのは料理界の不文律。
器屋を営む僕も、長いことそう思ってきた一人なのですが、数年前から「果たしてそうなのだろうか?」という疑問を抱くようになり、現在では「白い器というのは実は合わせるのが難しい器なのだ」という結論に至っています。
「何にでも合わせやすい」というのは、言い換えれば「何物とも溶け合わない」ということなのかもしれないなあ、とも。 たとえば──。
陶器(土もの)には、「粉引」と呼ばれる技法があります。これは、ロクロなどで土を成型した上に、「化粧」と呼ばれる白い泥漿を掛けて焼成する技法の総称。粉引の器の焼き上がりは「白」なのですが、素地にどんな土を使うかによってその色調は異なって見えます。赤土の上に化粧を掛ければあたたかな雰囲気の白になるし、黒土の上に化粧を掛ければ、やや落ち着いた印象の白に。粉引という一つの技法を例にとっただけでも、そこには何パターンもの白が存在するわけです。
また、骨董マニアに人気が高い朝鮮白磁の世界では「百種類の白がある」とも言われます。百の白というのは大げさかもしれないけれど、少なくとも、器の世界において「十人十色」ならぬ「十人十白」なのは確かです。
つまり、色調の幅が広すぎるがゆえに、白という色の扱いは難しくなるわけです。
お料理と器が好きな人ならもうとっくにお気付きのこととは思いますが、色調や質感が異なる白い器同士を同じ食卓に乗せると、妙にちぐはぐなコーディネートになってしまうもの。
新たに器を集めようとする人の多くは、「白で統一感を持たせよう」と考えがちですが、その場合、よほど気を付けて揃えないと、食卓で白い器同士がけんかを始める可能性があります。
確かに、白は基本の色。必要な色ではあるけれど、買う時は、あくまで「白いシャツ」を一枚買うような感覚で。ジャケットやパンツや靴に至るまで、すべて白で揃える人はいないでしょう? 洋服と同じように、器においても、「白」という色をそう位置づけて考えてみたいものです。
ここまで白い器の扱いの難しさについてくどくどと説明してきました。では、実際に合わせやすくて使いやすい、白いシャツのような器とは、どんな器なのでしょうか? ちょっと考えて浮かんできたのが、陶器(土もの)と磁器(石もの)のハイブリッド=半磁器で、前頁に掲載したプレート。つや消しの釉薬を掛けて、雑味を持つ柔和な白に仕上げています。
木やガラスなど異素材の器との相性もよさそうだし、和でも洋でもいけそうなたたずまい。
実際に使ってみて思ったのは、この器、なんだか着心地の良いコットンのシャツのようだなあ、ということ。カジュアルでありながら、ネクタイやジャケットを合わせれば、ちょっとしたフォーマル感も出せる感じ。シルクやリネンほどの癖はなく、あくまでプレーン。着回しが利く感じがうれしいのです。
これくらいの質感と色調の白であれば、「何にでも合わせやすい」と言ってもいいのでは。
今回はかぼちゃのフィットチーニを盛っているのであたたかな印象に見えますが、冷菜を盛ればクールに変身してくれます。これは、白という色が持つ最大の強み。清々しさや潔さがそこはかとなく感じられるのも素敵です。
料理とスタイリング=タカハシユキ
器制作=阿部慎太朗
写真=はるやまひろたか